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2014年3月柳原 美咲

わたしはシェンシェン

真夜中にお腹がすいてしまったけれど、ここは日本ではない…
安全確保のためにも無闇に外のセブンイレブンまで出かけるわけには…
さあどうする、飢え死にするのか……ああ、まだ日本を離れて1週間なのに…
と思ったら荷物の中にみそ汁があったのを思い出し、
順調に2杯目をすすりながらブログを更新している柳原です。








「わたしはシェンシェン」


台北から出ている地下鉄の終点から少し離れた町、五股(Wugu)。
高速道路のすぐ下を走る大きな道には、途切れること無くバイクや車、トラックが走っている。
大型家具店十数件が並ぶ大通りと、小さな飲食店や町工場がある細道をつなぐ交差点。
その一角にシェンシェンのお父さんが営むパン屋さん”HAJI SHI”がある。
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彼女はシェンシェン。13歳の中学生。
今日は待ちに待った日曜日。
なぜって?
日曜日は大好きなお店の手伝いが沢山できるから。
みんなより少し遅れて「おはよう!」とお店に入ってくると
従業員と同じオレンジのシャツと帽子を身につけて
13歳とは思えない大人びた顔つきでパンを丁寧に包装していく。
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難しそうなコーヒーマシーンも手馴れたものだ。
ドリンクは彼女の担当らしい。
テキパキとお客さんの注文を聞き、席まで届けにいく。
ホット用のカップのふたはテープで止めて、こぼれないように。
大きなパンは食べやすいように切り分けて袋詰め。
このおばちゃん…まさかこれ全部買ったのか?(笑)
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朝から晩までお客さんが途絶える事は無く
その間シェンシェンも笑顔でいらっしゃいませ!と迎え続ける。
お店はオープンして約1年なのに
一体彼女はどれだけの時間をここで過ごしてきたのだろう。
そんな想像をしながら彼女を見ていると、時々こちらを向いて微笑む。
休憩時間には、お店のネット広報を手伝いに来ていた従姉妹と
腕を噛み合ったり、冗談を言いあったり、店内に流れている有線を口ずさむ。
そんな無邪気な笑顔を見ていると、やっぱりまだ13歳の少女なのだと気づかされる。
夕方になると更に増してお客さんが詰めかけてきた。
朝と変わらず、むしろそれ以上にシェンシェンの声は大きくなる。
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お父さんもお母さんも明るくお客さんを迎える。
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ふわふわで種類豊富な美味しいパンだけでなく、この優しい店内の雰囲気が
多くのお客さんを惹き付けているのは言うまでもない。
所狭しと並んでいたパンも、あと少しで終わり。
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自分の丈に合わせて短くしていたエプロンを一足先に脱いで
シェンシェンも閉店の時を待つ。
お互いの言葉を話せない私たちは、某人気アプリの通訳機能を使い会話をする。
いくつかやり取りをした後、彼女は私に兄弟がいるか聞いてきた。
携帯に入っている家族の写真を見せながら二人弟がいるよと言うと、また微笑む。
わたしには5歳年上のお姉ちゃんがいるの。
突然真剣な顔に変わって、続けて携帯に文字を打ち込む。
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お姉ちゃんは体が弱いの。




さっきまで店で見せていた笑顔とは違う、ちょっと寂しそうな顔に
一瞬なんて声をかけたらいいのか分からなかった。
入院などして離れて暮らしているのかと思い聞いたら、一緒に住んでいるとのこと。
家族が入院している辛さは私も少しわかるから、ちょっと安心。


その後写真のフォルダを漁るけれどなかなかお姉ちゃんの写真が出てこない。
仕方なく某人気アプリの彼女のページを開く。
お姉ちゃんは目と胃が悪くて、子供の時に水晶を取る手術をしたのだそう。
確かに写真の彼女はとてもキツそうな度が入ったメガネをかけて、少し寄り目がちだ。
それでも、日本の若い女の子が撮るように可愛いポーズで自分の写真を撮って、
彼女が好きだという男の子の写真もこっそり載せていた。
お姉ちゃんはとっても優しいの!と必死に伝える姿を見るだけで
彼女がお姉ちゃんをどれ程大切に想っているのか理解するのは簡単だった。




彼女は私を気遣ってお菓子とか、ライト付きのキーホルダーとかをくれたんだけど
もうひとつ、折り紙で折った何かをプレゼントしてくれた。
なんだろうこれ。
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何度確認しても通訳の画面には”ハエ”って出てくる。
え、ハエ…?
ぷーーーーんって飛んで、パチンって捕まえるでしょ?あの虫よ、って笑顔で言う。
やっぱりハエみたいだ。なんでまた…ハエをくれたんだろう。つぶされちゃうのに。
疑問に思っていたのがバレたみたいで、彼女が説明してくれる。
「ハエは、台湾では幸福を運んできてくれるの。
 だからあなたにあげる。きっといいことがあるよ。」
なんていい子なんだ(号泣)ありがとう、谢谢(号泣)
なんでハエなんだよとか思ってごめん(号泣)
お礼に何かあげようかと思ってかばんを覗くけど
ストロボやバッテリー、汗をふいたタオルに使い古したエコバック、
そして教務課お手製ハンドブック…
あげられる物がなんにも入っていない。。なんてこった。
大阪のおばちゃんみたいに、飴ちゃん一個くらい入れておくんだった。
仕方なく唯一持っていた日本の100円玉をあげると、大事そうに宝箱みたいのにしまった。
その箱の中にもカラフルな飴の包み紙で作った”ハエ”がいっぱいいる。
きっとその”ハエ”たちが、これからも彼女たち家族に
たくさんの幸せを運んできてくれるんだろうな。
将来はパン屋さんになりたいの?って聞いたら
ちょっと照れながら、う〜ん分かんない…と答えるシェンシェン。
こんなに店の手伝いは好きなのに、パン屋になりたいわけではないのか…ちょっと残念。
でもね、
と彼女が続ける。
私は踊ったり歌ったりすることが大好きなの!!!!
そんな仕事ができたらいいなあ。
そう言って、最後はとびっきりの笑顔を見せてくれた。






わたしはシェンシェン。


小さなパン屋の看板娘のおはなしでした。






追記
なかなかうまく文章が書けなくて苦しいです…眠いです…(笑)
今回のブログのように「わたしは〇〇」というタイトルでは
出会って撮影をした人を紹介できたらなと思っています。
どんな人にも、その人だけの物語がある。
これらの物語を読んで、何を感じていただけるかわかりませんが
アジアという地で懸命に生きる彼女たちの姿を伝えることができたら幸いです。
そういった願いを込めて半年間のフィールドワークのテーマを”HER STORY”としました。
写真も文章も未熟でお見苦しい点があるかとは思いますが、
できるだけ鮮明に伝えられるよう努めます。
半年の旅を終える頃には少しは成長するのでしょうか。
成長できないとまずいのですが…。
せっかく飲んだみそ汁も、ブログを書くのに消費されてしまったので
朝ご飯を探しに行こうかなと思います。ぺこぺこです。
それでは皆さんも素敵な一日を。
シェンシェンのハエが何か良い事を運んできてくれるといいですね。