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2016年6月小山 幸佑
Where The Streets Have No Name
交差点の手前、乗っているタクシーが赤信号で止まる。
どこからともなく花やおもちゃや新聞を持った子供がわらわらと寄って来てウィンドウ越しに「買ってくれ」とせがむ。
いわゆるストリートチルドレンと呼ばれる子供たち。東南アジアの都市部ではおなじみの光景。
東南アジアだけでなくロシアや東欧、アフリカなど世界中の都市に同じような子供が溢れている。
勉強することもできず、従って自身の未来への投資ができない。つまり、抜け出せない。
わずかな小銭を稼いではその日の飯にありつくのが精一杯の暮らし。その先のことなんてとても考える余裕はない。
急速な発展の恩恵を受けることができず取り残され、最後の最後で割りを食うのはいつも子供たち。
国の発展なんてものはつまるところ子供たちのため、君たちのための未来なのにも関わらず。
しかし、インドネシアの子供たちはちょっと違う。
彼らは困窮する生活に喘いで止むに止まれず物乞いや花売りを行っているのではない。
むしろみな、自ら進んでストリートチルドレンになりたがるのだという。
例えば、ゴミ捨て場から拾ったのであろうマクドナルドやスターバックスのカップを置いて地面に寝そべる物乞い。
これも東南アジアでは必ず目にする光景、だけれど、
インドネシアではちょっと違うのが、道行く人が次から次へとそのカップにコインを入れていく。
今までの国ではそんな光景は目にしたことがなかった。
インドネシア社会の中には「弱者へは施す」文化が浸透しているのだそうだ。
そんな文化だから、子供達が施しのみで手にする月収が普通の労働者の平均月収を上回ることさえある。
そんなに美味しいなら働く方がバカらしくなるということで労働を捨て、
義務教育もままならぬうちに自ら進んで「ストリートチルドレンになる」子供が多いのだとか。
ある日、高層ビルのすぐ隣にあるバラック街を歩いていると、目の前に数人の子供たちがワイワイ集まっていた。
その中の一人と目が合ったと思った瞬間、全員が一瞬黙ったあと、
自分の方へ全速力で走り寄って来て、あっという間に彼らに取り囲まれてしまった。
「あぁーあ、運が悪かった。1秒後にはマニーマニーと来るだろう。無視して引き返そう…」
と思っていると、そのグループの中の一人の少年が何やらしきりに上を指差している。
少年の指差す先にはトタン屋根。その上に1羽の鳩。
どうやら彼らは通りがかりの観光客の自分に「あの鳩を捕まえてくれ」と言っているみたい。
とりあえず、金をせびるつもりはないらしい。
しかし、どこかで読んだことがある。鳩はその保菌率で言えば「空飛ぶドブネズミ」。
素手で掴むなんて!是非ともお断りしたい。
しばらく皆んなと一緒に観察しているうちに、その鳩はヨタヨタとトタンの上を歩き始めたかと思うと、ひとりでにボトッと地面に落ちた。
…落ちた?なんだかおかしい。鳥なのに。
すかさずその鳩に群がる子供たち。
どうやらその鳩、怪我をしているらしかった。
何らかの原因で羽根が折れてしまい、飛べなくなってしまったようだった。
「どうする?どうする?」と相談し合っている様子の子供たち。
羽根を引っ張って広げてみたり、ひっくり返してみたり、
ブン投げて無理やり飛ばそうとしたり、
かわいそうな鳩、最終的には折れてしまった羽根に、誰かがどこからか持ってきたガムテープを巻かれてしまいました。
子供たちは「これで大丈夫だろう」と満足げな様子。
いくら何でもガムテープは…と思っている自分をよそに
皆んなでワイワイキャッキャ言いながらどこかへ立ち去っていってしまった。
ガムテープを巻かれた鳩は置き去り。
彼もまたトコトコと、当てもなくバラック街の奥の闇へと歩き去っていきました。
子供のクリエイティビティ恐るべし。
その後、あの鳩がどうなったのかは誰も知らない…。