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2016年4月小山 幸佑

Once Upon A Time

「ベトナム人は龍の子、仙女の子孫」
FW出発前に日本で読んだとある本の中にそう書いてあった。

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南北に長く伸びるこの国の形は確かに龍のそれのような気がする。
平均気温が北部と南部で10℃以上も違う点は日本に似ている。
全土において感じる物静かでしたたか、そして南国にもかかわらず大らかというよりもどこか物憂げな人々の気質は
ベトナムが「社会主義国」である点も少なからず関係している気がする。
 
 
FWと言っても6ヶ月間、24時間ストイックに作品撮影のことだけを考えていては滅入ってしまうわけで、
行動計画表にポツポツと羽根を伸ばすためのレジャーというか単なる観光を忍ばせてある自分。
ハノイからホーチミンへ移動する途中、色とりどりのランタンで有名な世界遺産の街ホイアンに立ち寄った。

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ホイアンは、古くは東洋きっての貿易の要として栄えた港町。
東南アジア全域の人と物が行き交い、鎖国する前の江戸時代初期には日本人も多く渡来した。
町の中心部にはなんと「日本橋」なんて名前の橋まである。
川が土砂に埋まって浅くなり船が往来できなくなったことでダナン港にその座を譲るまで、
数百年のあいだ繁栄を極めたという。

黄色く統一された町の朽ち果てた中国風の外壁、もとは海底に沈んでいたかの様な劣化した町の門構え、
路地を舞うアオザイの女、音もなく川面を滑る小舟、対岸に浮かぶランタンの幻覚灯、
郊外にある遠い昔の見知らぬ日本人の墓群、ゆっくりと流れる時間。

そんなホイアンの町並みの中を歩いていた時、突然、
小さな頃に絵本の文字一字一句全てを暗唱できるようになるほど何度も何度も読み返したある昔話を思い出した。

もしかするとホイアンこそが浦島太郎が「美しき時間」を過ごしたとされる龍宮城のある場所ではないだろうか。

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ホイアンの隣、空港のある町ダナンは世界有数の美しさを誇るビーチを有し、近年ではリゾート開発が著しい。
そこかしこから工事の騒音が響き、広大な更地の所々に背の高いホテルが点々と生えている海沿いの町は、
かつてはウミガメの産卵地として有名だった。
ウミガメはベトナムでも昔から尊重されている特別な動物でもある。

その昔。
天候の悪化で南シナ海ベトナム近辺まで漂流し生き残った一人の日本人男性は、
そこで出会ったウミガメに誘われ川を上り、この地ホイアンにたどり着く。
アオザイから覗く白く細い足の女たちと豊富な海産物と美味い酒を共にたしなみ、
時が経つのも忘れて気が付けば「自国に帰る必要なんてもう無いんじゃないのか」
そう思うほどに楽しみ長く居座り過ぎてしまった。

浦島太郎龍宮城伝説、つまりそれは
不幸にも漂流してしまった一人の男がウミガメによって連れてこられた町ホイアンでの
ありがちな沈没、現実逃避を勝手に誰かが美化して作った話に過ぎないのかもしれない。

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「龍宮での3年間は、地上での700年間にあたります。
この玉手箱に浦島様が龍宮で過ごされた『時』が入っております。
これを開けずに持っている限り、浦島様は年を取りません。ずーっと、今の若い姿のままでいられます。
ですが一度開けてしまうと、今までの『時』が戻ってしまいます。決して開けてはなりませんよ」

時間を忘れてずっと居座って居たくなる。
そんなうちに、あっという間に時は経ってしまう。昔の誰かを思って気を引き締める。
もう随分慣れてきたパッキングを済ませて、携帯電話とカメラのバッテリーを充電機に差し込んで横になる。

居心地のいい場所は、ちょっと寄り道くらいが丁度いい。

明日にはベトナム最大の都市、ホーチミンへ向かいます。